牛歩のごとく

ランニング

 

 駅伝チームのメンバーを引き受けたのはいいけど、大学以来運動を何もやっていないので、走れるかどうかまったく自信がありませんでした。それでも走らなければなりません。駅伝大会は1年後に迫っていました。
 安物のスポーツウェアに着替え、これまた安物のブランド品でもないシューズを履いて、初めてのランニングに出かけました。
 僕の自宅の周辺は山に囲まれ、その下を流れている川以外には、山と山の間を縫うように走っている道路くらいしかありません。この道路をトレーニングコースにしました。
 幸いこの道路はほとんど車が通らないので、走るための障害は何もありません。しいて言えば、サルが頻繁に出没することくらいです。何もしなければ、人間に危害を加えることはありませんが、突然現れるとドキッとするのが玉に瑕(たまにきず)です。
 僕は時々やってくる車に注意しながら走り出しました。山道を走っている道路ですので、アップダウンがあり、カーブも頻繁に繰り返されます。行きは上り坂で帰りは下り坂です。
 走りはじめて10メートルも行かないうちに息が切れました。上り坂のせいもありますが、根本原因は体力不足であることは明らかです。情けないことにスピードは人が速足で走る程度です。まさに「牛歩のごとく」でした。「20年間も運動をしていないと、こんな無様で情けない姿になるのか――」と悔しくて涙が出ました。スポーツ万能? 体力と運動神経には自信があったはずなのに……この自信がいつの間にか揺らいでいました。なんという体たらくだ! 初日はわずか1キロしか走れませんでした。
 山は日が沈むのが早い。仕事の関係で帰りが遅く、毎日は走ることができませんでした。それでも、休日には欠かさず走りました。1キロが2キロになり、2キロが3キロになり……徐々に走る距離が延びていきました。スピードも牛歩から人がジョギングする程度まで回復していました。そして、半年後には5キロを25分くらいで走れるようになっていました。――次回に続く

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